症状
下痢や嘔吐がつづくため脱水症状に注意
感染性胃腸炎の主な症状は、嘔吐や吐き気、下痢、腹痛、発熱などですが、原因となる病原体や感染した人の状態などにより現れ方が異なります。また、症状が遅れて現れることや、感染しても症状がまったく現れないケースもみられます。嘔吐や下痢などの症状が頻繁にある場合は、脱水症状を引き起こすこともあります。
● ロタウイルス感染性胃腸炎
通常は感染から2日後に発熱や嘔吐、血便や粘血便を伴なわない下痢、吐き気、腹痛などの症状が現れ、1〜2日ほどで自然に治まります。多くの場合、発熱と嘔吐から症状が始まります。
● ノロウイルス感染症
感染から1〜2日後に吐き気や嘔吐、下痢などの症状が現れます。腹痛や頭痛、発熱、寒気、筋痛、喉の痛み、身体のだるさなどの症状を伴うこともあります。
● カンピロバクター感染症
感染から2〜5日後に下痢や腹痛、嘔吐、発熱、発熱に伴う寒気、頭痛、身体のだるさなどの症状が現れます。他の感染性胃腸炎よりも潜伏期間(感染してから症状が現れるまでの期間)が長く、多くの方に水様便や血便、粘液便、粘血便などの下痢症状がみられる特徴があります。
通常1日に2〜6回ほどの下痢症状が1〜3日ほど続きます。症状が重い場合は、1日に10回以上も大量の水様便が出ることもあります。
● サルモネラ感染症
感染から8〜48時間後や3〜4日後に症状が現れます。ガタガタと震えるような寒気や嘔吐から始まり、数時間後に腹痛や下痢などの症状を引き起こします。1日に数回〜10回ほどの下痢が3〜4日ほど続きます。
小さな子供や高齢者では、意識障害やけいれん、血液への感染(菌血症)などの重い症状が長く続く傾向があります。
● 腸炎ビブリオ感染症
感染から約12時間ほどでひどい腹痛や水様便、粘液便が現れます。まれに血便や38度ほどの発熱、嘔吐、吐き気などがみられる場合もあります。1日に数回〜十数回ほどの下痢が1日〜2日続きます。高齢者では血圧が低下することや心電図の異常が現れることがあります。
● 腸管出血性大腸菌感染症(O-157感染症など)
感染から3〜5日後に頻回の水様便や激しい腹痛、血便が現れます。便への血液混入量は徐々に増え、血液そのものが排出されるようになります。症状が現れてから2〜10日ほどで、腎臓や赤血球が破壊されることで貧血を起こす溶血性尿毒症候群、けいれんや意識障害を起こす脳症などの重い合併症などから、死に至るケースもあります。
● クリプトスポジウム症
感染から3〜10日後に1日に数回〜20回以上の水様便や腹痛、身体のだるさ、食欲低下、寒気、軽度の発熱などの症状が現れます。下痢症状は2〜3週間ほど続き、自然に治ります。
クリプトストジウムは牛や豚、犬、猫、ネズミなど腸管に寄生していますが、日本での感染例はほとんどありません。
● アメーバ赤痢
感染した人の5~10%の人に粘血便や下痢、テネスムス(排便はないのに便意がある)、腹痛などの赤痢に似た症状が現れます。血液に感染が広がる栄養型へ転移すると、肝臓や脳、肺、皮膚などに深い傷(潰瘍)を作り、重い症状を引き起こすこともあります。
● ジアルジア症
主に血液が混じっていない水様や泥状の下痢や衰弱感、体重減少、腹痛、寒気などがみられます。感染しても症状が現れない場合がほとんどですが、症状が現れる場合は1日に数回〜20回以上の下痢が必ず起こり、発熱はほとんどみられません。
原因
原因となる病原体は多岐にわたり、経口感染
感染性胃腸炎は、主に病原体のウイルスや細菌、寄生虫が口に入ることで感染します。原因となる病原体は多岐にわたり、多くのウイルスや細菌、寄生虫が原因になります。これらの病原体が直接口に入るだけではなく、病原体が付着した手で調理することや、調理器具や食器などを介して感染することもあります。また、ペットに接触することで感染するケースもあります。
● 原因となるウイルス
ロタウイルスやノロウイルスなどのウイルスが原因となります。
● 原因となる細菌
カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオ、O-157などの細菌が原因となります。
● 原因となる寄生虫
クリプトスポジウム、アメーバ、ランブル鞭毛虫(ジアルジラアンブリア)などの寄生虫が原因となります。
診断と治療
感染性胃腸炎の診断
感染性胃腸炎は、原因となる病原体は多岐にわたり、病原体によっては特定が困難なケースもあります。症状の程度に応じては、詳しい検査を行わない場合もあります。嘔吐や下痢がひどい場合は、脱水症になる可能性があるため、血液検査や脳検査にて脱水の有無を調べることがあります。
● ウイルス性胃腸炎
3歳以下の乳幼児や高齢者、悪性腫瘍(がん)などの場合は、必要に応じて吐いたものや便に含まれているウイルスの遺伝子を調べる検査(PCR法)を保険適用にて行う場合があります。
● 細菌性胃腸炎
吐いたものや便から細菌を培養し、原因となっている細菌を特定します。また、血液検査により白血球数やCRPなどの数値を調べることもあります。
腸管出血性大腸炎が疑われる場合は、血管の壁を破壊するベロ毒素の遺伝子、溶血性貧血、血小板減少の有無、腎臓障害の有無などを調べることや、頭部画像検査(CTやMRI)、脳波検査などが行われる場合もあります。
● 寄生虫症
吐いたものや便、大腸内視鏡にて採取した組織などに寄生虫がいるかどうかを顕微鏡で調べ、原因となっている寄生虫を特定します。寄生虫の遺伝子を調べる検査が行われることもあります。
感染性胃腸炎の治療
治療方法は病原体により異なります。感染していても症状が現れない場合には治療の必要はなく、症状が軽い場合には腹痛や頭痛などの症状を抑えることや脱水を改善するための治療のみが行われます。
● ウイルス性胃腸炎
治療薬がないことや比較的症状が軽く短期間で自然に治癒することから、特別な治療を行わず経過をみることがほとんどです。下痢や嘔吐を止める薬は、症状を悪化させる恐れや治癒までの期間を長引かせる恐れがあるため、お腹の調子を整える調整剤、乳酸菌剤などが使用されます。
● 細菌性胃腸炎
多くの場合は時間の経過とともに自然に治癒します。現れている腹痛や頭痛、発熱などの症状を抑える薬が処方されることがあります。吐き止め、下痢止め、痛み止めなどは、症状を悪化させたり回復を遅らせたりする可能性があるため、使用を控えることや医師管理のもとで慎重に使用されることがあります。
カンピロバクター腸炎やアメーバ赤痢などでは、細菌を殺すための薬(抗菌薬)を使用する場合があります。
● 寄生虫症
原因寄生虫により治療方法は異なりますが、飲み薬や点滴による治療が行われます。薬を使用せず、自然に治癒するのを待つケースもあります。
予防
感染しない対策や感染を広めない注意を
● ロタウイルス
症状が重くなることの予防を目的としたワクチン接種があります。
生後6〜40週までの間に2〜3回の接種を行います。これは、ロタウイルスに初めて感染した時に最も重い症状となり、感染の回数を重ねるとともに症状が軽くなることを応用した予防接種です。
● ロタウイルス以外
ロタウイルス以外は、感染性胃腸炎を起こす病原体には予防接種がないため、まずは感染しないことや他の人に感染を広めないよう注意することが大切です。
しっかりと手洗いや消毒を行うこと、十分な加熱調理が感染予防となります。また、感染性胃腸炎の中には、感染力が非常に強く少ない病原体で感染するものもあるため、感染者が吐いたものや便などから感染を広めない注意が必要です。
海外旅行先(特に途上国)の水や食べ物で感染する場合もあるため、渡航先の衛生環境を調べて感染しないよう予防しましょう。
医療機関受診のポイント
嘔吐や吐き気、下痢、腹痛、発熱などの症状があれば受診を
嘔吐や下痢などの症状が現れた場合に受診します。特に、乳幼児や子ども、高齢者は、重症化したり、脱水症状を起こしたりすることがあるため、無理をせず早めに受診するようにしましょう。
診察室で医師に伝えること
感染性胃腸炎で受診する際は、医師に以下を伝えるようにしましょう。
● 保育園、幼稚園、学校、職場、家庭などで同じような症状が現れている人がいないか
● 症状が現れた時期
● 症状が現れる前に飲食した物
● 嘔吐や下痢の回数
● 吐いた物や便の性状
● 腹痛や頭痛、発熱、身体のだるさなど全身症状の有無や程度
● 治療中の他の病気、使用している薬
● 症状が現れてから使用した薬(市販薬含む)
● 水分補給や食事ができているか(脱水の有無)
● 最近の海外渡航歴(場所や滞在時期)
受診すべき診療科目
● 内科
● 小児科
● 消化器科
医療機関により行っている検査が異なるため、検査を希望する場合は事前に確認しましょう。また、嘔吐や下痢などの症状がある時に受診する場合は、他の患者やスタッフへの感染を予防するため、受診前に申し出ると良いでしょう。